これは魂の殺人

2023年7月23日、水井真希が急逝した。

 

享年32歳の若さだった。

 

グラビアアイドルであり女優であり映画監督であり脚本家、それが彼女の肩書きだ。

 

しかし彼女の人生は度重なる性加害とセカンドレイプに苦しめられた人生だった。それでも彼女は自分と同じ苦しみを抱える被害者たちの側に立ち、自身が実際に受けた性被害をモデルに映画化した『ら』をこの世に送り出し、性暴力被害者の支援に力を尽くした。

 

彼女の死から11日後、東京ドキュメンタリー映画祭事務局がプログラムディレクターのひとりである金子遊の辞任を発表した。金子は水井真希から性加害の告発を受けた人物であり、彼女の死を重く受け止めた映画祭実行委員の総意として降板の勧告がなされ、これを受けての金子の辞任だった。

 

本映画祭プログラムディレクターに関する問題の対応について|東京ドキュメンタリー映画祭2023 (tdff-neoneo.com)

本映画祭プログラムディレクターに関する問題の対応について

だが、金子の性加害を告発した水井真希のSNS投稿を今では見ることができない。SNSの管理者に対して金子が削除を要求し、管理者がその要求に応じたためだ。削除された時期は推定で2024年2月頃。ネットで探してみたが金子からも管理者からも投稿削除の報告はなされていない。投稿は皆の知らぬ間に消されていた。

 

さらに金子のブログからも8月8日付の投稿記事がいつの間にか消えていた。これは金子が映画祭ディレクターの辞任後に投稿したもので、そこに次の文章が記されていた。

 

ひとりの女性の心を傷つけたことを心底から反省しています。ご本人、ご遺族に心からのお詫びを申し上げます。

病気療養から回復次第、カウンセリングや研修を受け、持つべき倫理観、女性の人権や尊厳についてなど、一から学び直し人格を矯正します。

 

https://kinema.hateblo.jp/

 

なぜだ?なぜ何の予告も説明もなくこの文面をブログから削除した?

 

なお文面には

「法的にも実際にも当方による性加害の事実はありません」

との記述もあるが、いまここでその是非は問わない。その代わり次のことを指摘しておく。

 

金子遊のみならず、水井真希を知る全ての人間が思い起こすべきことがある。それは金子と出会う以前から水井真希は悪意ある人間たちから複数回の性暴力を受け、そのトラウマ(心的外傷)に苦しんでいたことだ。彼女はその短い一生の間に複数回の性加害を受け、被害の後も心的外傷とセカンドレイプに苦しめられた。

 

性暴力は魂の殺人とも呼ばれる。性暴力で壊された魂は、たとえ手厚いケアによって回復したとしても、元の無傷な魂に戻ることはない。深い心の傷は癒された後も傷跡として残る。そして被害の度合いが深刻であればあるほど被害者の苦しみは後を引く。苦しみは被害を受けたその時だけでは終わらない。PTSD(心的外傷後ストレス障害)として知られる症状、時と場所を選ばずフラッシュバックする恐怖と暴力の記憶に心は何度も何度も痛めつけられ、平和な日常は破壊される。毎日が地獄だ。性暴力の忌まわしい記憶は何十年にも渡って被害者を苦しめることもあれば、突然に被害者の命を奪い去ることもある。

 

複数回の性暴力を受け、さらに周囲の無理解や悪意によってセカンドレイプされることは、魂を何度も殺されることだ。水井真希は何度も魂を殺され、最後に肉体の死を迎え若くしてこの世を去った。

 

殺人の被害者は二度殺されるとも言われる。最初に殺されるのは事件が起きた時、二度目に殺されるのは事件が忘れ去られた時。

 

だが私は忘れてはいない。魂を何度も殺されながらも水井真希が2023年7月23日まで生き抜いたことを忘れはしない。そして水井真希を最期の日まで苦しめてきた者たちのことも忘れはしない。今も水井真希は私の記憶の中で生き続けている。だから私は水井真希の冥福を祈らず、代わりに水井真希がこの世にいる間に何もできなかったことを悔やみ続けるだろう。

 

そして本日2024年3月26日、映像作家・吉田孝行が新宿警察署で事情聴取を受ける。彼はSNS投稿で次のように理由を説明した。

 

金子遊さんが私がXやブログで「金子遊が水井真希という女性に性加害をしたと虚偽の投稿をしている」と被害届を出したらしく、警察の事情聴取を受けることになりました。

https://twitter.com/yoshidafilms/status/1770334373193121896?t=zX5ZoaFrVW3YJ8U8FliqfA&s=19

 

私は今日この日を当ブログの公開日とする。このブログは魂の殺人を追憶するためのブログであり、魂の殺人者たちにまだ忘れていない者がいることを伝えるものだ、

 

水井真希を殺したのは誰?

 

 

〈文中敬称略〉